ハーベストフィルムで俳優ワークショップを始めて、1年3ヶ月が過ぎた。その間、“俳優にとってワークショップとは何だろう”と考え、“自分のとって演技を指導することは、何だろう”と考える機会が多かった。誰にかお願いされてやっているのではないからだ。

ワークショップから始まった『恋人たち』はキネ旬で一位を獲得した。ロカルノ映画祭で賞をとった映画もあった。金儲けだって側面もある。名もなき俳優からお金をとることを否定されたこともある。自分が現役の映画監督だって自負もある。教えることに、自分の能力の限界を感じることもある。カサヴェテスはどんな人でも良い演技をさせる自信があるって言っていたっけ。出会いの場だと言い切る監督たちもいる。オーディションだと喧伝するワークショップもある。で、このワークショップは?オレは何を求めている?いつやめてもいい環境で時間が許すかぎり続けてきた。未だ観ぬ俳優たちと出会うことを選んできた。何度もくる人たち、いわゆるリピーターは約半数を締めている。そのことが大きいのかもしれない。幸せなことだ。

俳優が育っていく姿を見届けたいと言う思いからこのワークショップは始めたのだ。続けて来ている人の中からチラホラとオーディションで大きな役をとる人が出て来た。素直に嬉しい。だけど、勝ち取ったのはオレのおかげじゃない。君たち自身の力だ。孤独に世界に立て。ワークショップでオレを選んだのは君たちだ。オレは選んでいない。いずれオレが選んで君たちに出演してもらいたいと願っている。演技とは自分自身とわかりえない他者に向き合う行為だ。世界にどう対峙するかだ。その延長線上に仕事としての俳優があるとオレは信じている。過剰な向上心は心を歪めるよ。努力なんて大抵通用しない。運をつかめ。そして心を揺らすんだ。出来るだけ大きく強く。道半ばなのはわかっている。もう少し続けてみよう。そしてスクリーンで命を揺らす姿を見せてくれ。